喉頭ガン・中咽頭がん。放射線治療から10年:経過と対策

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■発症:1年目

  • 患者(父)71歳:声を使う仕事(俳優)をフルタイムで50年間、現役
  • 声を出すときに喉にちょっとしたつっかかり、違和感あり
  • 実際、舞台での台詞の発声時に、ちょっと発声しにくそうなことあり
  • 声質は今まで通りよく通る
  • 喉の違和感が多少出てきたので、近所の町医者(耳鼻咽喉科)に診てもらう
  • 「ウチでは診られませんので大学病院へいってください」とのこと
  • 徒歩圏内にあった大学病院にて受診、MRIで中咽頭ガンが見つかる
  • ステージ4(T3,N0,M0)、ほぼゴルフボール大のガンが中咽頭にできていた
  • リンパ節、遠隔臓器に転移なし

※患者のパーソナリティ

  • これまでは風邪ひとつ引いたことのない健康体
  • おおらかだが神経質な性格
  • 喫煙歴は50年、1日1箱ペース
  • 飲酒歴も50年、1日ビール大ビン2本ペース
  • よく食べる、よく寝る、元気そのもの
  • 172センチ70キロ
  • 普段から健康には気を使って、ウォーキングや軽い筋トレも

■治療:1〜5年目(71歳〜76歳、体重70kg→65kg)

  • 大学病院では、ガンの切除を勧められる
  • 幸い他にガンの転移は見られなかったので、手術で切除すれば完治する見込み
  • ただその場合、声帯も切除するので声が出なくなる
  • 患者本人は俳優の仕事を続けたかったので手術以外の方法を希望
  • 声を失うことは人生を失うこと
  • 化学療法(抗ガン剤)と放射線治療を併用することになった
  • それ以外にも当時はまだ珍しかった免疫療法も併用
  • 治療がスタート

※放射線治療

  • 標準療法のひとつで、放射線をガン細胞に当ててダメージを与え、ガン細胞を小さくする治療方法。
  • 局所的に作用するので副作用は比較的小さいが、放射線のピンポイント照射ができないことも多いため、ガンができた近隣の組織も破壊することがある→今回はこれが後々影響してくる。

※化学療法(抗ガン剤治療)

  • 薬物(今回はピシバニールなど)を使用し、ガン細胞の増殖を抑える治療方法。
  • ピシバニールはそれほど副作用はなかったが、使用する薬物によっては脱毛やだるさなどさまざまな副作用もある。

※免疫療法

  • ガン治療が始まる前に、体内にある「元気な抗体」を採集し培養、ガン治療が始まったあと、抵抗力が弱った体に培養した「元気な抗体」を随時戻して、抗体による攻撃でガン細胞の縮小を目指す治療。
  • ガン治療が始まると、特に抗ガン剤によって体の抵抗力が落ちる。
  • そうすると体が本来持っているガンを攻撃する力も弱くなるので、治療前の元気な抗体をまた体内に戻してやることでガンへの攻撃力が期待できる。
  • 大学病院ではない、民間のクリニックにて治療。
  • 保険適用外のため治療には約100万円かかった。

■治療経過

※治療初期〜1ヶ月

  • 放射線治療は約30日、毎日
  • 徒歩10分の大学病院での治療のため、入院はせず
  • 遠方の別の大学病院での治療も検討したがその場合は入院になるため本人が近場の大学病院を希望
  • この治療期間中は特に目立った副作用なし
  • 生活も今まで通りだが、当然ながら完全禁煙
  • 酒はOK

※〜3ヶ月

  • 1ヶ月経過後から目に見えてガンが小さくなってくる(半分くらいのサイズ)
  • と同時に食道内部がただれ始める
  • 強い放射線を照射しているため、食道内部がヤケドしたような状態になる
  • その後ヤケドが化膿し、喉の内部全域が口内炎のようになる
  • 白い膿のような苔のような物質が喉の粘膜を覆う
  • 炎症を起こしている
  • この炎症によって食べ物を飲み込むときに非常に強い痛みが出る
  • 固形物だけでなく、唾液を飲み込むのもかなり痛い様子
  • 痛みが辛く食欲が低下するも、本人は体力維持のために頑張って食べる
  • ここで食事が取れなくなると、喉の炎症がおさまるまで入院して流動食になる
  • 本人は入院が嫌だったため努力して食事を続けた
  • 体重は5キロ減
  • 病院での週1の定期検診時には、喉の白い苔をスプーンのような器具で削り取るのだが、これがまた猛烈に痛いらしく、常に涙目状態

※〜6ヶ月

  • ガンはかなり縮小、放射線治療、化学療法、免疫療法の効果はてきめん
  • 前立腺にもガンが見つかるが、こちらは咽頭ガンとは関係なし(転移ではなさそう)
  • 喉内部の痛みは続く
  • 放射線治療の影響、副作用で唾液が出にくくなってくる
  • 口の中が乾きやすいため、常に水のペットボトルを携帯し、水分補給
  • 声はよく出ており、俳優の仕事は舞台の仕事含めて今まで通りで来ている
  • ただ、5〜15分おきのこまめな水分補給が必要なため、役の中にもお茶や水を飲むシーンを作るなどして乗り切る

※〜1年

  • ガンはコントロールできている
  • ガンのサイズも縮小が続き、他にも転移なし
  • 前立腺ガンはホルモン療法、化学療法で抑制、目立った脅威なし
  • 喉の化膿は範囲こそ狭くなってきているがまだかなり痛い様子
  • 唾液が出ないことにより歯にダメージが出てきている
  • 虫歯、物理的な欠損
  • 唾液は歯の修復液でもあるので、これが出ないと口内環境は一気に悪化する
  • サリベートなどの人工唾液を使うのが良かったかもしれない

※〜2年

  • ガンのサイズは大幅縮小、ほぼ消えている
  • 再発兆候もなし
  • 歯のダメージが顕在化、虫歯ができてきている
  • 歯科にてケアするも大きな改善は見られず
  • 喉の痛みはだいぶ和らいできている
  • 放射線治療の副作用により、アゴ周りの筋肉が固まってきている
  • これにより大きく口が開きにくい
  • 喉の組織、食道周りの筋肉も腫れて食道が狭くなってきている
  • これにより食べ物を飲み込むときにスムーズに飲み込めないことがある
  • 日常生活に大きな支障なし

※〜5年

  • 喉のガンは消失、再発なし
  • 主治医からは勝利宣言
  • 喉の痛みもなくなり、日常生活も普通に送れている
  • 歯のダメージと喉、顎の筋肉の腫れは続く

■予後:6年目〜10年目(77歳〜82歳、体重63kg)

  • 咽頭ガンの再発なし
  • 歯は次第に悪くなっていき、1本ずつ歯が抜けてくる
  • 最初は差し歯にて対応、次に部分入れ歯、9年目にはすべての歯が抜け総入れ歯になる
  • 歯が抜けた穴から顎の骨に菌が入り、骨に感染
  • 抗生剤等で処置するも、顎の骨のダメージは放射線治療の影響で回復せず
  • 感染は抑えられたものの、8年目には顎の骨を骨折、就寝時横向きに寝ると痛みが大きく、寝られず
正常な顎の状態
右の顎骨を骨折
  • 顎の骨折は奥歯を噛んだときの圧力によるもの
  • これ以降、顎骨の骨折は治癒せず
  • 顎の筋肉が固まっているため、口の開きは2センチが限界
  • 食べ物は2センチにカットし、食べやすく用意した
  • 声は十分出ているが、9年目以降は滑舌が悪く、喋りにくそう
  • 首周りの筋肉、肩周りの筋肉まで腫れ、緊張がひろがる
  • 顎の骨の骨折の影響もあり、首を動かしにくい
  • 歯は総入れ歯で変化なし
  • 9年目以降、固めの食事は取りにくい
  • 刺し身で言うと、マグロはOK、シマアジはだめ

※最後の1年:81歳〜(体重61kg)

  • 膀胱ガンの発症、咽頭ガンとは因果関係なし
  • 発見時、膀胱内部にはイソギンチャクのような大きめのガンができていた
  • サイズはゴルフボール大
  • 前立腺ガンの検診では見つけられず
  • 前立腺ガンの診断、経過観察はマーカーで行い、MRIを撮影したりはしないため膀胱ガンの早期発見はできなかった
  • 膀胱ガンは排尿時の血尿(ロゼワインのような色)により発見
  • 声は出ており、滑舌が悪いためやや聞き取りにくいところもあるが十分に話せている
  • 顎の痛みも慣れたためかそれほど痛みを感じていない様子
  • ただ、就寝時は仰向け一択
  • 食事はプリンのようなものか流動食に近いもののみ可

※最後の1ヶ月:〜82歳(体重53kg)

  • 急に食欲がなくなり、ものを食べなくなる
  • 1ヶ月で体重9kg減(→52kg)
  • 病院で処方された缶入りの栄養ドリンクを1日350mlx2缶、自家製のペースト食200mlx2がすべての食事
  • 一日の摂取カロリー1000kcal程度、これ以上は無理ぽい
  • 入院はせず、自宅にて療養
  • 往診医にも来てもらい、点滴でも栄養補給
  • 自宅にて息子に看取られ、老衰にて逝去
  • とても穏やかな最期でした

■総括〜

  • 声を失いたくないなら放射線治療しかない
  • 声が出ていたことは本人の生活の質を下げなかったこと(家族や友人とのコミュニケーション、俳優業の続行など)に大きく寄与、晩年の充実は間違いなく声を残したことにある
  • その分、痛みや不自由との戦いは多かった
  • 放射線のピンポイント照射ができる大きな病院での治療なら様々な副作用はもっと抑えられたかも
  • 副作用:唾液がでない、またそれによる歯のダメージ、喉の筋肉、首の筋肉の異常緊張による摂食障害、顎の骨のダメージ、骨折による日常生活への悪影響
  • 唾液が出なくなった時点で、単なる水分補給ではなく人工唾液の徹底使用を検討、実践すべきだった
  • これにより、歯のダメージ、ひいては顎の骨のダメージを押さえ込めた可能性は残る
  • ただ、日常生活への大きな影響もなく、入院も1度もせず10年間生活を全うできたことはガンとの付き合いとしては非常にうまくやったケースであると考える
  • これは本人の戦う意識と、周りのサポートによるものである
  • 声帯を切除することでもう数年間は長く生きられた可能性もあるが、咽頭ガン発症後に生まれた孫達に、声を聞かせてあげられたこと、コミュニケーションをしっかり取ってあげられたことは何よりも大きな現代医学からの贈り物であると思う
  • あらためて主治医の先生方ならびにサポートチームの皆さんに感謝したい
  • 治療費(自己負担額)の総額は10年間で200万円程度、後期高齢者のため1〜3割負担

BB1100

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